4.語彙を豊富にすること(2)

4.語彙を豊富にすること(2)


・Step3…含みのある表現を求めて
 確かに,言葉には,その意味・用法というものが決まっています。だからといって,一つの言葉がどんな状況においても,全く同じ意味で使われるとは限りません。場面によって,発した(書いた)人の立場や心情によって,様々な解釈が成り立つのです。

 簡単な例で説明しましょう。
「彼は,カブトエビの飼育に熱中している」
という文があったとします。
 「熱中する」とは,「ある事柄に,熱心に集中する」という意味であると,漢字から伺(うかが)い知ることができます。この文の意味をマトモにとらえるなら,
「この人は,熱心に,カブトエビの飼育に集中している」ということになります。事実としては,それ以上でもそれ以下でもないかもしれません。

 ところが,
・発言者=女性,彼=その恋人
だとすると,恋人が自分をそっちのけで,カブトエビのことばかり。「私とヘンなムシとどっちが大事なの!?」という,やきもちというか,非難めいた意味がかくされているかもしれません。「もっと私のことも大事にして」という隠れたメッセージかもしれないのです。

・発言者=教師,彼=その生徒
だとすると,「この子は,小動物の飼育を通して,命の尊さを学び,自然科学への興味を持つ姿勢を身に付けようとしている」と,暖かく見守る気持ちが。逆に,

・発言者=生徒,彼=その教師
だとすると,「あの先生,いい年してバカみたい…」という,嘲笑(ちょうしょう)的な
意味がこめられているかもしれません。

・発言者=考える学習をすすめる会のウロコ先生,彼=私(Mr. KAZU)ならば,もっとすさまじいことになります。熱帯魚飼育の専門家であるウロコ先生は,「本人は頑張っているつもりかもしれないが,安物のカブトエビ飼育セットをそのまま使おうなどとは,考えが甘い。石を敷いたり水草を入れたりして,もっと本格的に飼育しろ!」と。何気ない一言に,これだけのニュアンスが込められているかもしれないのです。


 おわかりいただけたでしょうか? たった一つの文が,実に多くの含みを持った表現として生きているのです。
 これこそが,「文章の読み取り」なのです。特に,文学的文章(小説・随筆)の読解には欠かせないものです。

 ただし,説明的文章(説明文・論説文)に,このような深読みは禁物。
その場合は,語彙に忠実な読み取りが必要となります。


 …語彙に関して考えを深めていくと,行き着く先は「国語」なんです。英語よりも数学よりも,国語力,いや,日本語力の強化が,考える学習の根幹であり,本物の学力を付けるための大切な要素なのです。

 その点,ふだんから本をたくさん読んでいる人は,ほとんど例外なく,語彙が豊富です。文章に慣れ親しむ機会が多い。読むことで何かを感じたり,考えたりする習慣が身に付く。その結果,日本語に対する鋭さが養われるなど,さまざまな相乗効果をもたらします。
 国語がニガテな人には「本を読め」といったアドバイスがなされますが,ふだんから本を読んでいる人とそうでない人の違いがはっきり出るからこそ,このような助言が意味を持ってくるわけです。

 とはいえ,本を読むことが好きな人は,言われなくても自分からすすんで読書にはげみます。そうでない人は…。
 読書が好きでない人には,ウロコ先生が提唱し,多大な効果をもたらしている「新聞の投書写し」を推奨(すいしょう)します。新聞にある,一般の人からの投書を読み,それを書き写したり,要約したりしながら,日本語に対する感受性を養い,同時に広い見識を身につけようという試みです。私が説明しても埒(らち)があかないので,メルマガ「今日から実践!心の豊かな賢い子供を育てる12章」を精読されることを強くお奨めします(勉強法メルマガのページにリンクを貼ってあります)。


 最後に,このページを読んで下さった方へ。Step1~Step3までを,ぜひ実践してみて下さい。材料は,皆さんのまわりに掃いて捨てるほど転がっています。この文章でさえ,トレーニングに使うことができます。意識的に,少し難しめの言葉をあちこちに使ってみましたので。

 これを続けていくと,やがてあなたの発言や文章は,驚くほど大人びたものへと変貌(へんぼう)を遂(と)げることでしょう。同時に,あなた自身の考えや行動にも大きな変化が現われてくるはずです。


おしまい



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